No.412
2008-07-21
“友川カズキ”を贈る
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 「ポカリポカリ生まれた命だ。カクンカクン息絶えた命だ」。ウイスキーを飲まないと歌えない男が、命をふりしぼるように叫び、ギターを撥で叩くようにかき鳴らす。しかも秋田弁である。「歯車だけで擦り切れて、立っているだけの能無しだ」とも続く。フォーク歌手・友川カズキの「一切合財 世も末だ」である。とにかく聞く奴の胸もかき鳴らさないでおかない。本当は「生きているって言ってみろ」をレコード店で探したが在庫はなかった。ところが、http://jp.youtube.com/watch?v=a1xry5szUKkで余禄を付けて聞けたのである。友川の生き様を、この曲を添えて、今ごろは辞表を突き出している男に聞かせたいと思った。
 生きる力というのは、いつ、どのように身に付くのか。この場合の生きる力というのは、薄汚いものを自らかなぐり捨てるほどのもの。辞表男に何の力になれないことは確かだが、荒野に立てば、いままで潜在していた獣性のような生命力が出てくる。一度の人生を、実存として生きるチャンスでもあるのだ、と。
 そんな思いのところに、友川カズキが飛び込んできた。何気なく手にしたスポーツグラフィック誌「ナンバー」703号。「無償の放熱〜友川カズキと能代バスケット〜」と題して、藤島大が寄稿している。元早稲田ラガーらしく、猛然とタックルして、そのままの勢いの書き方だ。
 バスケットには疎いのだが、能代工業はあの田臥を輩出し、高校界では無敵を誇る存在ぐらいは知っている。そこにはやはり先駆的な指導者・加藤廣志がいたのだ。その加藤が、選手としてではなく、指導者としての才能を高く評価した男がいた。もし相手チームであれば、と畏怖するほどであった。男の名は及位典司。「のぞきてんじ」と読む。これが誰あろう、友川カズキである。バスケットが彼の原点だったのだ。藤島の取材は、友川の棲み処である6畳一間のアパートで、1升瓶を傍らに、アルミ鍋をつつきながら行われた。友川は58歳、削ぎ落とした無頼さが、あの歌い方につながっている。
 意志の身体化。スポーツ特訓の真髄を指している。バスケットであれば、ルーズボールの争奪に絶対負けないように、放り上げられたボールの奪取を何度も何度も繰り返す。血反吐を吐いてもなお繰り返し、意識を身体にしみ込ます。そんな小さな領域を持つこと。それをいかに持たせるか、が指導者にかかっている。スポーツだけに限らない。
 及位は勇んで能代工業バスケット部に入るが、加藤監督はその資質をすぐに見抜き、選手ではなくマネージャーとする。ここのマネージャーは、監督のすぐ下、主将の上に位置し、笛を持ちコーチ役を兼ねる。「マネージャーは監督の分身なり」というのが、能代バスケ強さの核心。及位マネは、2畳の下宿に移り住み、猛然とその職分を果たし、国体で初の全国制覇につながった。とてつもなく真っ直ぐで、一途で小細工がない、出会えてよかったと、エピソードに事欠かない。
 高校卒業後上京とあるが、奇妙な空白を残す。つまり高校バスケという組織に納まる個性ではなく、はじき出されたと考えるのが当たっていよう。日本橋の婦人服卸問屋に就職したが、すぐに退社。自意識過剰の男が接客に向くはずもなかった。その後、友川かずきと名前を偽って練馬の飯場にもぐり込む。以後、新聞配達、労務者、旋盤工、ボーイ、クラブ歌手と、転々とする。
 教科書を広げたこともない特異な資質に、太宰治、中原中也が絡みつき、岡林信康につながって、宇崎竜童と出会い、歌手デビューとなる。それに加え、詩人であり、中上健次が認める画家であり、競輪評論家でもある。
 辞表男よ、薄汚れた月給などくれてやれ!つまらぬ不運と口にするな!友川に人生の“もし”が沢山あるように、君にも人生の面白い“もし”が始まろうとしているのだ。同期入社の友人達がそこで定年を迎える10数年後、「生きているって言ってみろ」を歌う君に、立っているだけの能無しだったと彼らは思い知ることだろう。

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