No.418
2008-09-20
紅とんぼ
495 「さすらいの舞姫」
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 場末の居酒屋で、とことん呑んでみたい気分である。見知らぬ異郷で、土地の方言を聞きながら、取り留めのない話に耳を傾けたい。そこにひょいと、流しがギターを抱えて入ってくる。「いいところに来たな、おにいさん。今宵は“ちあきなおみ”でいこう。取りあえず、“喝采”からやってくれ」。ご祝儀だといって、ポケットから5千円札を取り出す。ところが、“黄昏のビギン”“劇場”と続き、“紅とんぼ”まで来ると、涙がこらえ切れなくなる。「おにいさん、ありがとう。もういいよ」「えっ、もういいんですか」。「おかあちゃん、勘定だ」。そんなやり取りがあって、ふらふらと漁火に誘われるように海に向かって歩いていく。涙を拭うことなく、にじんだ眼で冥い海をいつまでも眺めている。
 寅さんの導入部分となったが、いま聞きたい、見てみたいのは“ちあきなおみ”だろう。昭和22年9月17日の生まれだから、61歳を迎えている。歌うのを止めたのが平成4年9月11日。夫の郷英治が55歳で逝った日である。16年間、封印をしてしまった彼女の奥深くに去来するものは何か。「ちあきなおみ 喝采、蘇る」(石田伸也著 徳間書店)を飛ばし読みした。最近は、本屋の片隅に、返品寸前で肩身が狭そうな本に眼がいってしまう。
 テコでも動かない、一途な女の頑なさ、なのかどうか。美川憲一の「あなた、自分の才能に気付いていないのよ」も当たっているし、写真家の井ノ元浩二が「あれだけキャリアがあるのに、自分が撮られるのに慣れていなくて、いつも『どうしよう』と逃げ回るような感じでした」というのもよくわかる。下積みが長かった。橋幸夫やこまどり姉妹の前座をこなし、演歌の流し、キャバレー出演で何とかしのぎ、22歳での「雨に濡れた慕情」でやっとのデビュー。「四つのお願い」「X+Y=LOVE」のヒットでようやく紅白出場を果たし、昭和47年「喝采」でのレコード大賞につながる。いつも誰かのために歌っている。母親の期待に応える、生活を支える、作曲家・作詞家の情熱に応える、夫でありマネージャーである郷のために、それだから歌えた。誰もいなくなれば、歌わなくてもいいということになる。
 「実はそんなに深い理由などないのではないか」というのが友川カズキ。「夜へ急ぐ人」は、郷とちあきが友川に頼み、作詞作曲してもらった。昭和52年の紅白でちあきは自分で希望してこれを歌うが、司会から「何とも気持ちの悪い歌ですね」といわれ、語り草になったもの。歌いたい歌と、ヒットを狙って歌わされる歌の落差に戸惑っているとも指摘する。事務所とのトラブル、コロムビアと結婚を巡っての契約解除、ビクター、テイチクへの移籍にからむ人間不信などなどがあるが、それは40年以上も芸能界にいれば、誰しも避けられないこと。真相はわからない。
 問題は、誰が天岩戸から、彼女を引っ張り出すことができるのか、だ。執念のプロデューサーの出現が待たれる。もし実現するのなら、一人芝居ミュージカル「LADY DAY」をやってほしい。伝説のジャズシンガー・ビリーホリディを演じたもので、これを観た観客の誰もが「歴史的な場面に立ち会った」とまでいって絶賛している。
 さて、酒や旅に逃げても何にも解決しないことはわかっている。「明日の100人より、きょうの一人を助ける」というのも、庭の草取りの方がはるかに実効的というのもよくわかる。さりながら、テロとの闘いとしてイラク、アフガニスタンに3兆ドルの戦費を投入するアメリカが、サブプライムローンの破綻から世界不況の引き金を引いてしまう愚かさ。そしてまた、懲りずに麻生太郎を選出しようとする自民党総裁選の愚かさである。
 きょうでお終い 店じまい 新宿駅裏 紅とんぼ・・・・・。これも糖尿病で苦しむ、わが畏友ドンホセのギターで、聞きたいものである。

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