No.429
2009-01-31
携帯を忘れた旅
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 品川駅に降り立つのは何年ぶりだろう。正面にあるホテルパシフイック東京は、新婚旅行最終日に宿泊した思い出深いもので、当時出来たばかりの新名所といわれていた。それ以来とすれば、37年振りとなる。しばし感傷かと思われるも、瞬時に現実に引き戻された。眼の前が、京品ホテルである。廃業を通告され、従業員が解雇撤回を求め、自主営業を続けているあのホテルだ。正面玄関に全国から寄せられた赤旗が張られ、“檄”の大きな文字から放射線状に組合員の思いがマジックで手書きされている。懐かしいと、手でなぞってみる。そしてすぐに反省、自戒だ。懐かしいだけのセンチメンタル左翼気取りが、どんなに有害となっているか、と。重い足取りで品川プリンスホテルを目指す。どうしてパシフィックではないのか、だって。シングルで1万円近い差なのである。割り切ることにしたのだ、許されよ、亡妻。
 14日から1泊での取材旅行を楽しんだ。例の神通会報の取材である。いつまでも出しゃばるな、と肝に銘じているが、若手取材者が見つからなかった。3人のアポを取り付けて、やはりわくわくしてくる。それがいけなかったのであろう。スタートからアクシデントである。7時05分発の飛行機に遅れそうになり、慌てて車を降り、走り出したのだが、携帯電話を車の中に忘れたのに気がついた。次の便にすれば正規料金だから2万円強となるはず。携帯無しの旅か、2万円で次の便にするか、と一瞬悩んだ末に、携帯を捨てる選択をする。係員に付き添われて、飛行機に滑り込んだのだが、冷や汗を浮かべつつ、襲ってくるリスクに、2万円の負担でもその方がよかったかと思い返したりする。
 最初のリスクである。午後3時、渋谷・東急ホテルのロビーで、と約束を取り付けたのが中野香織さん。ファッションを切り口にするコラムニスト。当然のように向かったのが、ハチ公前にある渋谷エクセルホテル東急。しばらくして、ふと不安がよぎる。普通エクセルを東急ホテルとはいわないのではないか。すぐにホテルの係員にいまひとつ東急ホテルはあるかと尋ねると、セルリアンタワーだといい、シャトルバスがあるから利用すると5分で着くという。10分前である。何はともあれ、乗り場へ急ぐ。手帳には念のために彼女の携帯番号がメモしてある。公衆電話で連絡する手もあるが、遅れることはあるまいとシャトルバスに乗る。走り込んで、エスカレーターを上って、ピッタリ3時。ロビーを見渡すと、彼女が立ち上がってくれてホッとする。「エレガンスとダンディズムの源流」というタイトルでのエッセイを書いてもらう事になった。神通会員の方はぜひ読んでもらいたい。
 次なるリスクだ。午後5時渋谷界隈で飲もうと約束した大学時代の友人である。待ち合わせ場所は携帯でするから、としていた。ところが手帳に彼の番号はあるのだが、古いもので掛からない。友人が私の携帯に何度も電話していると思うと、気が気ではない。自宅の番号を電話帳で調べて掛けてみるが、これも留守。人間は身勝手である。あいつの想像力では、携帯を家に忘れているということを期待するのは無理か、とも。普通のセンスであれば、ハチ公周辺となるだろうと、30分その周辺をウロウロするが、徒労に終わってしまった。何とも気持ちの落ち着かない夜となったのはいうまでもない。
 ホテルにチェックインする時に、品川駅の駅中コンビニ「成城石井」に目をつけていた。その品揃えに驚嘆していたのだ。小さなワインとパン、チーズ、サラダを買い込んで、部屋中のひとり夕食とした。
 翌朝9時の予約が、三菱飛行機の戸田信雄社長。品川グランドセントラルタワー三菱重工ビル内にあるのだが、YS11以来40年ぶりで、国産ジェット機を生産する状況を聞いた。面白い取材であった。
 というわけで、もう携帯なしでは仕事も私生活も成り立たないことを確認する旅となった。あなたなら、2万円を無駄にしても携帯を選ぶのであろうか。

301444