No.432
2009-02-25
ラジオと映画
495 「さすらいの舞姫」
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 老人特有なのだろうが、記憶装置が思い通りに動かない。昨日のことが思い出せず、遠い昔の記憶がこつ然と浮かんでくる。「ひょうたんは ひょこり〜んたん 月の夜更けに夢を見る」。こんな一節が、哀切なメロディを伴って口をついて出てくる。「いつかどこかで 何かをしたい  何ってなにさ どこってどこさ いつっていつだかわからない」。これは小学6年の時に聞いたラジオ番組ではないか。秀吉の幼少期・日吉丸をテーマにしていたドラマだ、と記憶回路がつながる。出世物語にこども心を躍らせ、放送時間を待ち焦がれていたのであろう。3畳くらいの部屋に机があり、大きなラジオがその3分の一ほど占めていたように思う。
 昭和30年代前半はラジオの全盛期。ラジオでの授業もあった。「マイクの旅」だ。先生が静かに聞け、というが、10分と緊張が続かない。地理の勉強で、北海道の牧場からのものが微かに記憶に残っている。当時は夕食が早かったのだろう。午後6時過ぎには、机に向かい、ラジオのスイッチもひねっていた。6時半が「一丁目一番地」。そして7時半が「三つの歌」。「三つの歌です 君も僕も、あなたも私もほがらかに」のテーマソングだ。8時が、花菱アチャコと浪速千栄子の「お父さんはお人好し」。8時半が「私は誰でしょう」と続く。9時過ぎに就寝という生活だったのだろう。懐かしい。
 さて、映画こそ最も後世に残せる媒体であるというのは、富山映画サークルの久保勲代表。だから、映画製作に誰しものめりこむ最大の理由がそこにある、と。ご存じ「おくりびと」は、本木雅弘がのめり込んだ。きっかけは「納棺夫日記」を手にしたこと。4年前になるのだろうか。原作者の青木新門氏に映画化について話が来た時に、深入りしないようにアドバイスしたという。「原作・青木新門」が字幕に出るチャンスを逸して、何とももったいない話となっているが、映画が売れるか売れないかは紙一重。富山でのロケが条件などと前のめりの話をすれば、恐らくロケ費用は同氏の負担となっていたかもしれない。とにかくこの世界、騙し騙されが当たり前で、作ったもの勝ち。製作費に加えて、宣伝費等々カネが湯水のように流れていく。この場合、のめり込んだ本木のリスクで話が進んでいく。助演した山崎努の好演技がなければ、どうなっていたか分からない代物。頼まれて日当に近いギャラで出演していて、妙に騒がれないのも山崎努のダンディズムを感じるのだがどうだろう。大きな枠組みが出来た段階で、松竹がそれならと乗り出した。ロケ地は山形県庄内だが、これは山田洋次の藤沢周平3部作「武士の一分」「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」が庄内ロケで行われ、その素地があり、高く評価した松竹の配慮である。
 滝田洋二郎監督も、ポルノで我慢強く腕を磨いたから今日がある。職人肌で、丁寧に仕事を進める滝田が声を掛ければ、撮影などのスタッフが馳せ参じるという人望もこの時に身につけた。ポルノ製作の時代は故郷・福岡町を大手を振って歩けなかったのではなかろうか。手のひらを返すようなお祝いムードだが、ポルノと併映で「痴漢電車とおくりびと」を企画する奥深さも見せてほしいものだ。もちろん選にもれたイスラエル映画の「戦場でワルツを」も加えて。
 ところで、ロスアンゼルスで開催されるアカデミー賞だが、渡航費、滞在費は自分持ちだということ。旅費が工面できずに発表まで待つことが出来なくて、自らトロフィを受け取れない監督も多いという。こんな噂もある。「崖の上のポニョ」の収益金がリーマン・ブラザーズ関連ファンドに投資され、大きなダメージを受けているという話だ。一攫千金を夢見るような危うい体質があるということは確かで、この不況が大きく影響してくることは避けて通れない。
 血走って作られる映画もいいが、ラジオのおぼろげな記憶も捨てがたい。今年見たい映画は、羽田澄子の「嗚呼 満蒙開拓団」とアンジェイ・ワイダの「カティンの森」。後世に、何が何でも残したいという心意気に触れてみたい。

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