No.441
2009-05-29
「グラン・トリノ」
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 様々なことが目まぐるしく、目の前を通り過ぎていく。見ていたのかという風でもある。関わったところで、ほとんど影響を与えることもない。老境に入ってからの孤独感はそんなことで深まっていく。持って行き場がない、やっかいなものだ。若い時であれば、友を誘って呑んで騒げば何となくやり過ごせたように思うが、老境のそれはそうはいかない。妙に頑固になっている。すぐに電話や携帯、メールに手が伸びない。会えば、もっと深い孤独を思い知らされるのではないか、という恐れでもある。
 「老人は迷っていた、人生の締めくくり方を。少年は迷っていた、人生の始め方を」。こんなキャッチフレーズに誘われて足を運んだ。映画「グラン・トリノ」。78歳のクリント・イースドウッドが監督し、そんな孤独な老いを自ら演じている。
 フォードを退職した主人公ウオルトは妻を亡くし、ひとりで住んでいる。つい米自動車関連労働者の手厚い年金制度を想像してしまうのだが、世代間格差が米社会も蝕んでいるのは間違いない。二人の息子家族とも心通わさない頑なな偏屈老人だ。ところがひょんなことから、隣に住むラオスからの移民・モン族一家の若者・タオと心をひらき始める。アメリカ中西部ミネソタの田舎町。人種差別、貧困、偏見がはびこり、特に荒んだ若者の暴力が幅をきかせる。家の修繕を通じて仕事の手ほどきをするタオが不良仲間から、リンチを受ける。それに憤り、不良のひとりを殴り倒したウオルトの行為が火に油を注ぐ結果となり、タオの姉が陵辱される。このまま引き下がれないとするタオを押し留め、ひとり不良グループに立ち向かう。それは彼らに銃をにぎらせ、自らの身を射させること。朝鮮戦争に従軍し、修羅場をくぐってきた迫力からか、ちょっとポケットから銃を抜くような仕草に、不良達は動転して銃を撃ち放す。もんどりうつウオルト。駆けつけた警官に捕縛される不良たち。筋書き通りともいえる復讐劇である。
 家族でもないモン族の純真な青年のために命を投げうち、遺言は財産は教会へ、彼が磨きあげていたフォード社製の名車グラントリノはタオに譲るというもの。がっかりする息子達遺族。イースドウッドのメッセージはどこにあるのか。意味のある死を自ら選択する老獪さ、移民でもあるこの少数民族にしか託すことは出来ない孤独と希望。GMの破綻劇を見るまでもなく、アメリカ建国の理想が人間の欲望をコントロール出来なくなってきている。そんな苛立ちと立て直すきっかけを訴えているように見える。
 さて、追い詰められた孤独と絶望といえば、盧武鉉前大統領であろう。自死は衝撃であった。年齢は1歳下だが、高卒で司法試験に挑戦し、人権派弁護士として、そして金大中の後継者として、北との融和政策に取り組み、米国依存にも果敢に抵抗することも、高く評価していた。また歴史認識でも、日帝支配下での行動がどうであったかを持ち出したことも、戦略的な互恵関係とかいってごまかすことより、確かな日韓関係をつくるうえで遠回りそうに見えても大事なことと思っていた。その生真面目さは全共闘世代と通じる。カトリックの熱烈な信徒でもあった自死は、それほどの絶望であったのだろうと推察するしかない。
 高齢化社会とは、孤独にどう向き合うか、でもある。昨年4月82歳で亡くなった歌人・前登志夫は、吉野に50年間隠棲して詠み続けた。いぶし銀ともいえる「孤独」である。「風吹けばねむりのままに勃起せり仏弟子ありき木々青あらし」。
 蛇足だが、ミサイル発射、そして核実験と北の強硬策は続くが、満州国建国を巡り、国際社会のすべてを敵に回した国と重なって見える。万一、万一と騒ぎ立てる愚は避けなければならない。もっと冷静に、日韓双方で北の再生プログラムを話す時が来ている。盧武鉉の死も無駄にしてはいけない。意味ある死を求める孤独老人の出番は必ずあるのだから、その日のために鍛えておこう。


 

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