No.457
2009-10-13
ビジネス・インサイト
495 「さすらいの舞姫」
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 ユニクロが、一橋大大学院に委託して社内ビジネスクールを開設するという。海外展開を一気に拡大して、日本発の「グローバル・リテーラー(小売業者)」を目指し、11年からの10年間で、売上高を5兆円にする新事業戦略に挑戦する。現在の約7倍の売り上げだが、そのためには人材発掘、育成がカギを握ると判断した。もちろん売り上げの6〜7割は海外となり、とりわけアジア重視は当然で、日本人だけでなくアジア各国からの人材も含めてほぼ200人程度を5年かけて教育していく。想像だが教育費は10億円は下らないと思う。柳井正・会長兼社長は「世界の社員の誰にでも門戸を開き、経営者の入り口まで育てた後は自己責任で経営を実践・経験させる」と意気軒昂だ。教育費こそ次なる成功の原動力だと確信しているようにも見える。こんな報道を見ながら、なぜ、一橋大大学院が選ばれたのか、に思いを巡らせた。正式には一橋大学大学院国際企業戦略研究科である。00年に京都大学の医系大学院とともに、少数精鋭の専門職育成を目指す政府方針で、スタートしている。
 得意の我田引水である。グローバルとローカルをつなぐ時は、地縁が重要なファクターとなる。この一橋の大学院開設にかかわったのは竹内弘高・国際企業戦略研究科長であるが、彼の師筋にあたるのが野中郁次郎・名誉教授である。余談になるが、あの暗黙知(ゆずりは通信74参照)を確立した人といった方がいいかもしれない。日本軍の組織を経営組織の視点から分析したのが名著「失敗の本質」だが、その著者紹介で、野中教授が富士電機に入社してすぐに、富山県滑川市にある北陸電気製造に出向しているのを見つけた。「一度滑川で、講演をお願いできないか」となり、つながりが出来たのである。
 さて、このふたりとも一橋卒ではない。竹内は国際基督教大であり、野中は早稲田である。優秀であり、必要であれば、自分の大学にこだわらない。地方大学には、特にこの点をよく見習ってほしい。10月1日、林文夫東大教授が定年を待つことなく、57歳でこの大学院に転じた。異例のことと報じられているが、大学間競争もそんなレベルに達しているといっていい。
 ビジネススクールのもうひとつの側面だが、受講者のインサイトだ。ホンダの車ではない。文字通り眼識、看破力である。英語や論理的な思考にどれほど優れていても、この能力は別のものだ。新しいビジネスモデルに、ビジネス・インサイトは欠かせない。ヤマト運輸小倉昌男、ダイエーの中内功、セブンイレブンの鈴木敏文などがその実践者となる。もちろんこれらの事業はケース教育の教材になっているが、受講する中で、事業課題を解決する“ひらめき”を感じるかどうかである。それまでに悩みに悩み、問題意識が沸点に達しているかどうか、能楽の序破急にも似て、急展開する激しいひらめきだ。ビジネススクールでどんなに成績が良くても何にもならない、10億円を投じた柳井が、200人の成績に関心など持つはずがない。経営の実践に、どう生かされるかだけである。
 「長らく大学で教えていると、田舎出身の学生の地頭の良さ、忍耐強さ、志の高さ、素直さは、本当に大切な資産だと思います。が、英語力を身につけることのシリアスさを実感していないため、スタートが遅れるのが本当に残念です。大学は専門教育機関化していくので、高校までの基礎学力の獲得がますます重要になるでしょう」。一橋大学・山下裕子准教授から、こんなメールをもらった。425号で紹介した神通会報を通じた縁である。田舎出身学生が、いまひとつのところで抜け出せないもどかしさに、何とかならないものかという教育者の悩みでもある。実は彼女の指導教官は伊丹敬之教授である。野中の弟子筋だが、独自の人本主義を掲げ、経営改革を訴え続けている。その伊丹教授の厳しい指導をかいくぐってきた彼女の自負に、抜け出した何かを感じることができる。
 イノベーションは何も技術分野に限らない。経営というシステムでも創造的破壊は可能であり、小さな企業にこそ求められているといっていい。ユニクロだから、と諦めないで、小さなビジネススクールは居酒屋でも可能なのである。暗黙知は居酒屋で軍歌を歌う中でこそ伝えることが可能なのだ。「ねえ、野中さん」。
 参照/「ビジネス・インサイト」(石井淳蔵著・岩波新書)

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