No.474
2010-03-16
実朝忌
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 「大海の磯もとゞろによする浪われてくだけて裂けて散るかも」。源実朝の歌である。鶴岡八幡宮に参詣した際、甥の公暁に暗殺されて、28歳の生涯を閉じた悲運の実朝が多分22歳の頃に詠んだものであろう。「割れて」「砕けて」「裂けて」「散る」。こうまでして畳み込まれると、感受性のやわらかな青年の<踏み外し>願望を刺激しないはずがない。45年前、東京柏木の4畳半の下宿で、この歌を話題にしていた。兄・頼家が将軍の座を追われて北条氏に誅殺され、12歳の若さで第3代将軍に就かされた。鎌倉幕府を取り巻く御家人同士の凄まじい権謀術数が渦巻く中でどれほどの重圧があったか、砕け散りたい衝動に何度も駆られたことだろう、自らの命にも不吉な予感があったはずだ、などなどの記憶である。
 急に思い出されたのは、2月の大阪行きに際して数年ぶりに、この時の友人と再会したからである。昨年9月以来のリーマンショックは、彼の経営をも脅かしている。今までもいろいろあり、何とか乗り切ってきたが、今回は難しいかもしれないな、と表情がさえない。酒は進まなかったが、話はここまでの人生分析となった。来し方のみになるのもいたし方あるまい。
 何を目指して、どう歩み、どこにたどりついたのだろうか。どうも俺の血の中に、色濃く流れているものが、何かを決めているようだ。母方の血だが、といいつつ、山口瞳の「血族」に及び、隆慶一郎の道々の輩(ともがら)に連なるものを挙げた。思えば、漁師町の片隅にありながら、何かが違っていた。悪たれどもと遊び呆けていても、魚の臭いが街を満たそうとも、家の中はそんなものとは無縁だという空気だった。そんな違和感が60余年の馬齢を重ねても、心の奥底にあるように思う。進学校といわれた高校に入った時もそうだし、駿台予備校でも、大学でも、学生運動で入った政治セクトでも、そして正業に就けないからと選ばざるを得なかった不動産業でも、だ。在日、同和、ヤクザなどこの業界は、参入ハードルが低く誰にも参入しやすい。そんな中で、今までよくやってこれたものだ。
 こんな時は、聞き役に回るしかない。不用意な、安っぽい言葉はこれまでの関係を壊してしまう、というより拒絶につながりかねない。若い時の友情とは違う。こうしたもどかしさを受け入れるしかない年齢なのである。ひとり宿泊の阪神ホテルに戻って、ウィスキーを飲むしかなかった。
 そして思い出したのである。割れて、砕けて、裂けて、散る、か。ふたりの郷里である奈呉の浦浪もそうである。郷里に帰れば、タクシーを飛ばしても、その海を見ずにはおれないのだ。海を静かに見ている彼の心中に思いを馳せるしかないのである。
 大きな時代の変わり目の、その渦中にいることは間違いない。渦中にいるからこそ感じない“なぎ”ということもある。知の軸を持たない我らは、いつもこうした現象に幻惑される。福祉社会といいながら、自己責任もあるな、といい。平等といいながら、格差やむなしとなる。鳩山政権の失態、不統一もあるが、右からの揺り戻しも激しい。普天間問題は特にそうだ。“なぎ”と感じる時が一番危ない。蠢いている反動の動きに警戒であり、マスコミの論調を素直に信じてはいけない。子供手当て、高校授業料の無償化を所得制限無しでやるということは、高額所得者への累進課税とセットでなければならないのだ。この増税を正直に述べて、社会福祉の充実なくしては、多くの人が乗り切れないことを明確にすべきだろう。この政権が変な形で躓けば、その反動として、取り返しのつかない右寄り強権政権が現われることを最も恐れている。60余年生きて、たどり着いた先が、そんな時代というのは哀し過ぎるというもんだ。

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