No.475
2010-03-27
ものがたり診療所
494 船の旅・考
493 「キャタピラー」
492 急がば回れ!
491 三浦哲郎の歳月
490 未完絶筆 良寛
489 女優というもの
488 「クロッシング」
487 ペシャワール会 中村哲
486 独楽吟
485 6月15日に考える
484 究極の分かち合い
483 思い出袋
482 浦河べてるの家2
481 経営者人材
480 「茜色の空」
479 「嗚呼 満蒙開拓団」
478 追悼・井上ひさし
477 ホスピス・ものがたりの郷
476 拉致家族会
475 ものがたり診療所
474 実朝忌
473 地域金融
472 日韓併合100年
471 「逝かない身体」
470 春近し
469 みすず書房
468 イサム壮行会
467 労働市場の改革を!
466 天上大風
465 ベーシックインカム
464 捨てる心地よさ
463 「カティンの森」
462 回想の魔術
461 ノンエリートの社会空間
460 「普天間」を乗り切る
459 光州の記憶
458 死者よ来たりて
457 ビジネス・インサイト
456 率直な疑問
455 自己愛に沈む若者
454 続・演劇の力
453 演劇の力
452 「こどものその」
451 農業政策の分岐点
450 抱きしめたい8月
449 “こころ”という代物
448 不良少“女の一生”
447 湯布院と博多祇園山笠
446 男おひとりさまの老後
445 ふるさときゃらばん公演
444 名古屋市に注目!
443 トップ人事と秘話
442 バロン・サツマ
441 「グラン・トリノ」
440 「パンデミック」
439 後輩X君へ
438 すべてが廃虚に
437 「法然と親鸞」
436 「ムサシ」
435 ヒトを選ぶ
434 闇社会・京都の影
433 笑うしかないか
432 ラジオと映画
431 通訳から作家へ
430 「生き急ぐ」内村剛介
429 携帯を忘れた旅
428 1枚の賀状から
427 “がん”からの生還
426 2人の恩人との別れ
425 育英基金構想
424 レッドクリフ
423 アパの真相
422 無冠の車椅子
421 画家 木下晋
420 科学者たちの楽園
419 救急精神病棟
418 紅とんぼ
417 極道記者
416 機先を制する
415 新・脱亜論
414 浜口陽三・南桂子
413 朝の靴音
412 “友川カズキ”を贈る
411 コンベンションビジネス
410 キューバ
409 信長
408 横付けサービス
407 脱・脱ダムと新幹線
406 ポスト消費社会
405 黒山もこもこ
404 ふり返る勇気
403 吹田事件
402 伏木・没落旧家
401 「じゃあな」




 3月19日、大安吉日を選んで開院した。その名も「ものがたり診療所」。読者には初見参だが、医療法人のパートナー・佐藤伸彦医師の深い思い入れによる。一度診てもらいたいと思わせるいい名前ですね、と好評である。控えめな性格から広告を控え、看板も8階建てビルの奥まったところに表示してあるだけだ。住所は富山県砺波市山王町で、JR砺波駅南口に隣接する高齢者福祉施設「ちゅーりっぷの郷」1階にテナントとして入居している。待合室も小さく5〜6人でいっぱいとなる。
 商売人のDNAを持っている身には、開院も開店も同じだろうと思い込んでいる。朝早く目を覚まし、神棚に拍手を打って、験のいいスーツに、これまた縁起のいい白地のネクタイ(男の伊勢丹で買ったもの)をキリッと結んで、出かけた。60歳を過ぎて、この緊張と高揚感はつくづくありがたいと感謝している。富山西から砺波インターまで高速を走りながら、思いはいつしか昭和32年にプレイバックしていた。年齢を重ねるということは、回想シーンをいくつも持っていることらしい。
 一昨年亡くなった父が闇商売で溜め込んだ資金を元に、新湊の一等地に衣料品店「婦人商会」を開店したのが昭和32年の秋口だった。20坪足らずの小さなものだったが、ガラスの陳列棚にはあふれんばかりの商品を並べていた。紅白の幕を店の周囲に張り巡らし、折り込みチラシも近郷まで配布して、満を持してのものだった。開店前から人が並び、客が押し寄せるようにやってくる。もう押すな押すなの、てんてこ舞いである。飛ぶように商品が売れていく。ようやくのことで店を閉めて、売上金の精算をしている両親を、小学生の筆者がのぞきこんでいたのである。手提げ金庫にあふれた現金は30万円を超えていた。陳列棚は空っぽになっているので、すぐに仕入れをせねばと、父はその現金を懐に、その日の夜行で大阪に飛んだのである。上り調子の昭和の記憶のひとつだ。
 開店というのは、そんなものである。「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」がひときわ高く店内に響き渡り、あらゆるところに活気が満ち溢れるものなのだ。ところがどうだ、開院となるとそういうわけにはいかない。第1号の外来はどんな人がやってくるのか、駐車場に目をやってはそわそわ落ち着かない。そんなヤキモキを察したのか、受付を担当する女の子が「いらっしゃいませ」はダメですよと念を押す。予約開始の8時半過ぎ、わが同年代の息子に手を引かれて、車を降り立ったおばあちゃんが最初の“お客さん”となった。その後次々とドアが開き、待合室は埋ることになった。ほっと胸をなでおろしたのはいうまでもないが、何となく物足りなさは残ったのである。
 このデフレ状況で、ますます「せぬがよき」風潮となっている。不安と縮みの負の連鎖といっていい。確かにわが法人も覚束ないスタートである。パートナーという表現を使っているが、医療福祉は医師だけでやり切れるものではない。マネジメントや、世間知というものが必要不可欠といっていい。それを使う使われる上下関係ではなく、対等に智恵を出し合い、足りないところをカバーし合って行く。そんな思いからである。もちろん、その基盤となっているのが基金の構成である。1670万円は11人の拠出でまかなっている。平均すると150万円、これをどうみるかである。退職を控えた団塊世代には無理な数字ではない。退職者用上乗せ金利定期もいいが、直接投資の上乗せは想像以上だ。これこそ、「せぬがよき」文化への反撃のきっかけになると信じている。加えて、60歳過ぎたものの働き方だが、謙虚で、若者を引き立てることが最も肝要であることはいうまでもない。
 さて、その婦人商会もこの6月14日閉店することを決めた。竜馬の姉ならぬわが姉が後期高齢者になるのを機に、50年余の歴史に幕を閉じることにした。さみしいことだが止むを得ない。起業と廃業、新陳代謝の主役交代こそエネルギーなのだ。
 そして、お願い。近隣の方に限らず、ものがたり診療所のご利用をよろしくお願い申しあげます。

301403