みゆき様へ
大変難しい質問内容で、質問をいただいてから１年が過ぎようとしております。「顔がゆがんでいる」とは、顔もしくは顎が左右非対称で、どちらかに曲がっている（専門的には偏位している）状態をさすのだと思うのですがいかがでしょうか？
保育園での歯科検診で「顔がゆがんできてるんじゃない？」と言われたことで大変心配されたことと思います。私が気になることは、「きてるんじゃない？」というところです。歯科検診のレベルは専門的検査診断を行うこととは違うレベルなんだということも前提にしてお話ししなければなりません。（たとえば１年前の顔を基準として）専門的検査をし、前回と比較して本当に変化してきているのであれば別ですが、そうでなければ、非科学的で根拠がない何とも無責任な診断と発言だと思い、同じ歯科医師として恥ずかしく、申し訳なく思う次第です。
次に「もし、本当にゆがんできているなら早い治療が必要でしょうか？」というご質問ですが、「ゆがみ」の原因が、乳歯やかみ合わせの仕方によって生じているのか、骨格から来ているのかで全然対処の仕方が異なります。
乳歯やかみ合わせの仕方によって生じているのであれば、矯正治療するのも簡単ですが、乳歯列期の小さい子供には「適応」という大きな能力があるので矯正治療をしなくても生え替わりで自然に治ってしまうことがあるということも頭に入れておいてください。自然に治るかどうかの見極めは、経験豊富な矯正専門医におまかせ願います。そして、４才の娘さんに対して何年も前から矯正をすすめるようなことは、資格認定された矯正専門医は決していたしません。ということは、そういう時期に矯正治療を行っているとしたら、それは大変怪しいことですし、担当医が矯正専門医の資格を持っているかどうかを確認した方がよいです。（ちなみに、矯正歯科という看板は自由標榜制によって、歯科医師であれば誰でも自由に掲げることができます。矯正歯科という看板が出ていても専門医とは限りません。）
大事なことは、乳歯から永久歯に生え替わってから必要な治療を行っても生物学的な結果に差がないということ、永久歯が生えてきてから矯正治療した方が効率がよいこともわかっており、乳歯列期における早期治療の必要はほとんどないという矯正治療のガイドラインができているからです。
「はえかわってから矯正したら、ゆがみも治るものなんでしょうか？」というご質問については、もし「ゆがみ」の原因が骨格から来ているのであれば、成長とともに「ゆがみ」が増悪し、矯正単独で治しきることが不可能な場合もあり、程度によっては外科的な対応を必要とする場合も出てきます。（たとえば、祖父母から孫へと遺伝的に強くプログラムされているようであれば、その骨格的要素のすべてまでは矯正単独で治しきることができません。）とくに骨格的要因が強い場合には、早くから手をつけたことでゴールにすら入れず、成長との追っかけっことならにように、成長が落ち着いてから矯正治療を行うことになります。
まずは「ゆがみ」の状態を専門的に診断する必要がありますが、子供さんが小さければ小さいほど、ゆがみの程度を診断することは難しいということもお伝えしておきます。就学前の６歳くらいから、矯正専門医による骨格的な診断を受けるとよいと思いますし、永久歯への生え替わりで自然に治る可能性があるのならば、必要もない乳歯列の早期治療に子供さんを巻き込むことだけはすべきではありません。
また、乳歯列の早期治療を行ったからといって、骨格を変えることもできません（専門的な検査診断を行えない歯科医師が、表面的な変化を骨格的な変化と勘違いして早期治療しているケースをよくみかけます）が、歯ぐきの中に埋まっている永久歯すら動かすことができず、永久歯が生えてきてからまた治療しなくてはならないということが起こりえます。何回もあるいはだらだらと長期にわたって無意味な矯正治療をするのは子供さんがかわいそうです。必要な時期に短期間の矯正治療によって目標が達成されなければなりません。だからこそ誰に診てもらうかが重要になってくるのです。
みゆきさんの娘さんが６歳臼歯や永久前歯が生えてくる、そろそろよい年齢になってきたのではないかと思いますし、これまで１年間待ったこと、それが手遅れとかそういうことは決してございません。 |
